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未成年の子供が相続人となるケースというのは、そんなに珍しいことではありません。では、次のようなケースでは、どのように対処すれば良いのでしょうか。
【具体例】
「私は夫と5歳の子供1人の3人暮らしでした。先日、不幸にも夫が事故で死亡してしまいました。お葬式も終わり、家の中を整理していたところ、亡くなった夫が消費者金融から多額の借金をしていたことが判明しました。とても私が返済できる金額ではありません。
このような場合、私や子供は夫の残した借金を返さなければならないのでしょうか?」
このように、死後に被相続人の借金が発覚するということはよくある話です。大した金額でなければ良いのですが、途方もないような多額の借金が発覚すれば、残された家族としては心配で仕方がないでしょう。
では、このような場合、どのようにして対処したら良いのでしょうか。
○ポイント1:法定相続人はだれか。
今回のケースの場合、夫が被相続人ですので法定相続人は配偶者である本人と、子供1人の計2人が法定相続人となります。
相続分は、遺言書などが残っていなければ妻1/2、子供1/2となります。
○ポイント2:借金も相続の対象なのか。
相続の対象となる財産は、預貯金や不動産などのプラスの財産だけとは限りません。当然マイナスの財産も相続の対象となります。また、遺産相続はプラスの財産だけを相続してマイナスの財産だけはいらない、という選択の仕方はできません。相続する場合は、プラスとマイナス双方を背負うことになります。そのため、夫の残した遺産が、プラスからマイナスを引いて、それでもマイナスになるのであれば、相続する価値がない可能性があります。
○ポイント3:相続放棄の手続きが必要です。
このように、相続財産に借金が多く引き継ぎたくない場合は、「相続放棄」の手続きをしなければなりません。
相続放棄とは、家庭裁判所に対して、自分は被相続人の財産を相続しない旨の申し出をする手続きのことで「相続放棄申述書」を提出して行ないます。そのため、単に「私は相続しません」と借金取りに直接口頭で伝えてもその効力はありません。
相続放棄の手続きは「相続の開始を知った時から3ヶ月以内」に行なわなければならず、もしもこの期間を過ぎると原則的には単純承認と言って相続したとみなされてしまいます。
また、被相続人の財産を勝手に消費したような場合も相続したとみなされる恐れもありますので注意しましょう。
○ポイント4:未成年者の子供でも相続放棄ができますか?
未成年者が相続放棄をする場合は、未成年者単独での相続放棄はできないため、親が子供の代理人となって相続放棄の手続きを家庭裁判所に対して行ないます。
ただし、これには条件があります。親が子供の代理人となって相続放棄の手続きをするには、その親も同時に相続放棄をする必要があります。
もしも、子供だけが相続放棄をして、親が相続放棄をしない場合は、親が子供の代理人となって相続放棄の手続きをすることができなくなります。
○ポイント5:特別代理人が必要になる理由
子供だけに相続放棄をさせておいて、親だけが相続するということは、場合によっては子供の利益を不当に害する恐れが出てくるからです。
仮に100万円の相続財産があったと仮定して、これを相続する場合は妻50万円、子供50万円となります。けれども、親が未成年である子供を代理して相続放棄をすると、子供は「はじめから相続人ではなかったこと」になります。
つまり、相続人ははじめから妻一人だったことになりますので、妻が100万円を独占できることになります。
要するに、子供と親の利益が相反するため、このような場合は別途子供に親以外の代理人をつける必要があります。これを「特別代理人」といい、未成年者の住所地がある地域を管轄する家庭裁判所に対して、特別代理人の審判申立てをしなければなりません。
たとえ今回のケースのように借金が多いような場合でも、それを把握しているのは事実上親である妻だけですから、客観的な視点から子供が本当に相続放棄をすべきかを判断するために、特別代理人の存在が必ず必要なのです。
○ポイント6:多額の借金は迷惑極まりない!親族にまで迷惑がかかる。
例えば、夫の残した借金が10億円だったとしましょう。とてもじゃありませんが、妻も子供も相続放棄をするしかありません。もしも妻と子供が相続放棄をした場合は、「はじめから相続人ではなかったこと」になりますから、必然的に第二順位の相続人である被相続人の両親に相続権が移ります。けれども、両親としてもそんな多額の負債はいりませんから相続放棄をするでしょう。
すると今度は第三順位である被相続人の兄弟姉妹に相続権が移りますから、さらにそこでも相続放棄の必要性が出てきます。このように、家族の一人が多額の借金を残して死亡すると、親族を巻き込んでそれぞれが相続放棄の手続きをしなければならないため非常に迷惑です。
ちなみに、両親や兄弟姉妹については、その前の順位の相続人が相続放棄をしたことを知ってから3ヶ月間の猶予期間が与えられます。とは言え、あまりに多額の借金である場合は、予め第三順位の相続人まで連絡を取り合い、全員相続放棄をしなければならない旨を伝える必要があるでしょう。
○ポイント7:相続放棄には何が必要なの?
相続放棄をするためには、まずあなたが本当に相続人であるということを家庭裁判所に理解してもらう必要があります。そのため、相続放棄をする人の戸籍謄本、および被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本など一式が必要となります。
これらの手続きは、平日の昼間に何度か役所を訪れなければならないため、仕事をしている人にとってはとても大変ですので、無理をせず弁護士に依頼することをおすすめします。
○ポイント8:相続放棄は慎重に選択しましょう。
相続放棄をするということは、夫が残した財産は一切相続できなくなります。例えば、夫名義の家に住んでいるのであれば、それも手放さなければならなくなってしまうのです。
そのため相続放棄を選択する場合は、まずは徹底した財産調査を行い、その上で相続すべきか相続放棄すべきかを慎重に検討しましょう。
以上のように、8つのポイントについて見て来ました。
相続放棄はご自身で全てを判断するには意外と難しい側面もあります。また、短い期間、そして被相続人の死という現実を受け止めなければならない辛い状況の中で、的確な判断をしなければならないため、法律を扱う弁護士にアドバイスを依頼することは当然な判断ともいえます。被相続人の残した財産(プラスもマイナスも)の把握一つからしても非常に骨の折れる作業です。
ですから、まず遺産相続が発生する前、つまり遺言を用意する段階から弁護士の助けを求めることが賢明です。また、被相続人の死後は余計なトラブルを避けたいもの。特に、マイナスの財産である借金が残された場合は、相続放棄を含めたさまざまな選択肢を弁護士とともに考える必要があるでしょう。
埼玉県越谷市にある当事務所は遺産相続の実績が多数あります。ですから、相続放棄を含めたさまざまな法律対応が可能です。越谷市をはじめ、近隣の春日部市や草加市、川口市、八潮市、吉川市、三郷市、東京都足立区などからもご相談を受けております。まずは電話やメールにて、ご連絡ください。
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