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相続問題に直面したとき、「相続する」か、「相続しない」かの選択を迫られます。では「両方」は選択できないのでしょうか?
遺産相続によって両親の遺産を相続するのはありがたいことですが、借金まで相続したくはないですよね。例えば、持ち家の他に1千万円の借金があった場合、「持ち家は相続するけど、借金は引き継がない」という選択はできません。
たとえ持ち家と借金に直接の関係性がなかったとしても、相続するなら借金も含めて全部相続しなければならないため、いわゆる相続財産の「おいしいとこ取り」はできません。もしも、借金を相続したくなければ、相続放棄をする必要がありますが、この場合相続放棄してしまうと、持ち家も相続できなくなってしまいます。
これを踏まえて、実際に次のようなケースに出くわした時、あなたは「相続する道」と「相続放棄する道」、どちらを選択すれば良いのでしょうか。
■ケース1:住宅ローンが残っている場合。
父親が自宅の住宅ローンを残して死亡した場合、住宅ローンの残債務は相続人が引き継がなければなりません。ただし、数千万円以上の残債務が残っているような場合は、相続人にとって非常に大きな負担となります。
また、住宅ローンのような借金を相続して万が一「住宅ローンが返せない」というような状況に陥った場合は、相続人全員にその支払い義務が発生しますので注意が必要です。
では、もしもこのケースで相続人全員が「相続放棄」をするとどうなるのでしょうか。
相続放棄をすると、住宅ローンの返済義務がなくなる代わりに自宅を相続することができなくなります。すると、債権者である住宅ローンを貸し出した銀行は、裁判所に対して相続財産管理人の選任を要求し、自宅を競売などで売却しようとします。そうなれば住み慣れた自宅を出て行かなければならなくなる場合もありますので、相続放棄するかどうかは慎重に考えなければなりません。
ただし、住宅ローンを組む場合は、多くのケースで「団体信用保険」に加入しています。この保険は簡単に言うと、ローンを組んだ人が支払い途中に死亡した場合に、残りの残債務がチャラになるという保険です。例えば、自宅に限らず投資用不動産を購入している人の多くは団体信用保険に加入しているはずですので、まずは相続放棄を考える前に、この団体信用保険に加入していないかを必ず確認しましょう。
【ここに注意!】
もしもあなたが住宅ローンの連帯保証人や保証人になっている場合は、相続放棄をしてもあなたの支払い義務はなくなりませんので注意しましょう。
■ケース2:不要な土地がある場合。
世の中には持っていてもマイナスとなる財産があります。それは「土地」です。土地はただ更地のまま所有していると、非常に高い固定資産税を取られますので、土地を所有している場合は必ず何らかの「土地活用」を行い、税金の発生を抑えるとともに家賃などの収入を発生させる必要があります。
ただ、田舎の山奥の土地などは所有していてもなんの利用価値もないことが多く、所有しているだけで多額の固定資産税をとられるという、まさに「負の遺産」である場合があります。このような土地は、売ろうとしても買い手がつかなかったり、国に寄附を申し出ても国からも「いらない」、と言われたりと、非常に処分に困ります。もしもこう言った「不要な土地」の所有者が死亡した場合は、「相続放棄」によってその土地を事実上処分する事ができます。
ただし、不要な土地を処分するために、すべての相続財産を放棄しなければならなくなるため、もしも不要な土地のために相続放棄を予定している場合は、予め生前贈与などでその他の財産を移転させておく必要があります。
■相続放棄ができなくなる3つのパターンとは。
相続放棄をしようと思っても相続放棄できないケースというのもあります。
○その1:3ヶ月間の熟慮期間の経過。
原則論からいくと、相続放棄は相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所に対して申述することで行なわなければなりません。そのため、
この期間を過ぎていれば原則的には相続放棄はできません(参考記事:相続放棄の原則と例外:正しく知っておきたい相続放棄の知識)。
○その2:相続財産の全部または一部を処分した場合。
例えば、相続人が被相続人の口座から勝手にお金を引き出して浪費したような場合は、相続したとみなされてしまうため後から相続放棄ができなくなってしまいます。他にも、車やバイク、骨董品などを勝手に売ったりする行為もこれに該当します。
○その3:相続財産を隠していた場合。
表向きは相続放棄をしたが、実は隠し財産がありそれを密かに相続していることが分かった場合は、相続したものとみなされます。
■相続した後に、新たな借金が発覚した場合はどうなる?
遺産分割協議を行なって、相続人それぞれの遺産分割手続きが終わって一息ついている頃に、借金取りから連絡が入り、亡くなった父親に多額の隠し借金があったことが発覚するというケースは少なくありません。
万が一その借金額が相続財産を超える多額の金額だった場合、そこからもう一度相続放棄をする事はできるのでしょうか。上記の原則論からいくと、3ヶ月を過ぎていたり、財産を消費していたりするような場合は、たとえ後から多額の借金が分かったとしてもそれを逃れる事はできません。
けれども実務上は3ヶ月経過後に相続放棄の手続きをする事は決して珍しくありません。例えば、相続開始後、遺産分割協議にあたってろくに相続財産の調査もせずに相続手続きを行なったなどの落ち度が相続人側にある場合は別ですが、基本的にきちんとした財産調査をしたにも関わらずその借金に気がつかなかったような場合は、あとから相続放棄を申し出ても受理される可能性が高いようです。
ただ、それらの多額の借金が発覚してからさらに3ヶ月を経過してしまったような場合は、もはや相続したとみなされてしまいますので注意しましょう。
■遺産分割は、弁護士によるサポートが一番確実です。
上記のように後から思わぬ借金が発覚することになる一番の要因は、相続財産の調査不足にあります。相続人だけで被相続人の財産調査をしようとすると、どうしても不慣れな部分があるため、ミスや漏れが出てしまい、それが後になって発覚することで大きなトラブルに発展してしまいます。
そこで、相続開始後は特にトラブルがなくともできる限り専門家である弁護士に相談される事をおすすめします。弁護士が介在して財産調査などを行なえば、万が一あとから借金が発覚したとしても相続放棄を認められる可能性が高まるはずです。遺産分割で後悔しないためにも、まずは早めに弁護士に相談しましょう。
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