相続放棄申述却下審判に対する即時抗告申立事件
昭和63年(ラ)第70号 広島高等裁判所決定
(事実関係)
a) 亡Xは、昭和63年1月24日死亡し、その妻A、その長女B及びその長男Cが相続人となった。
b) Aは、昭和23年8月31日亡Xと婚姻し、BとCを生んだが、亡Xが他の女性と関係をもち子供まで設けたため、昭和28年ころ、BCを連れて実家に帰り、以来Aとは別居状態が続いた。
c) それ以降亡Xが死亡するまでの間、ABCは、亡Xの母の葬式の時1度会っただけであって、それ以外亡Xとの間の交渉は全くなかった。
d) BとCは亡Xの死亡当日、亡Xの実家からその知らせを受け、Aも当日長女のBから亡Xの死亡を知らされた。
e) 亡Xの葬式は亡Xと同棲していたYが喪主となってとり行われ、ABCも葬式に出席したが、Yから亡Xの資産や負債について全く話はなかつた。
f) ABCは、当時亡Xに資産や負債があるとは思っていなかつた。
g) その後昭和63年6月7日、ABCは、○○県信用保証協会から亡Xの債務の通知を受けて初めて亡Xに約570万円位の債務があることを知った。
h) ABCは、昭和63年6月20日広島家庭裁判所に相続放棄の申述をした。
(裁判所の判断)
上記認定事実によれば、ABCは、亡Xの死亡の事実及びこれにより自己が相続人となったことを知った昭和63年1月24日当時、
① 亡Xの相続財産が全く存在しないと信じ、そのためにその時から起算して3か月以内に相続放棄の申述をしなかったものであつて、
② しかも○○県信用保証協会からの通知により債務の存在を知るまでの間、これを認識することが著しく困難であって、
③ 相続財産が全く存在しないと信ずるについて相当な理由があると認められる
から、民法915条1項本文の熟慮期間は、ABCが○○県信用保証協会に対する債務の存在を認識した昭和63年6月7日から起算されるものと解すべきであり、したがつて、ABCが同月20日にした本件相続放棄の申述は、熟慮期間内に適法にされたものであるというべきである。
よって、ABCの本件相続放棄の申述を却下した原審判は失当であるから、これを取り消し、さらに調査、審理する必要はないものの、本件相続放棄の申述を受理させる必要があるので、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(弁護士からのコメント)
裁判所は、次のような事実から、最高裁判所の3要件の該当性を認定したと考えられます。
b) 別居状態であったことと、f) 葬儀の際、資産・負債状況の説明がなかったという点がポイントです。別居状態にあった場合、3か月を過ぎても認められる可能性が高くなります。
(要件該当性)
① 亡Xの相続財産が全く存在しないと信じ、そのためにその時から起算して3か月以内に相続放棄の申述をしなかったものであつて、
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f) ABCは、当時亡Xに資産や負債があるとは思っていなかつた。
② しかも○○県信用保証協会からの通知により債務の存在を知るまでの間、これを認識することが著しく困難であって、
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b) Aは、昭和23年8月31日亡Xと婚姻し、BとCを生んだが、亡Xが他の女性と関係をもち子供まで設けたため、昭和28年ころ、BCを連れて実家に帰り、以来Aとは別居状態が続いた。
c) それ以降亡Xが死亡するまでの間、ABCは、亡Xの母の葬式の時1度会っただけであって、それ以外亡Xとの間の交渉は全くなかった。
③ 相続財産が全く存在しないと信ずるについて相当な理由があると認められる
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b) Aは、昭和23年8月31日亡Xと婚姻し、BとCを生んだが、亡Xが他の女性と関係をもち子供まで設けたため、昭和28年ころ、BCを連れて実家に帰り、以来Aとは別居状態が続いた。
c) それ以降亡Xが死亡するまでの間、ABCは、亡Xの母の葬式の時1度会っただけであって、それ以外亡Xとの間の交渉は全くなかった。
e) 亡Xの葬式は亡Xと同棲していたYが喪主となってとり行われ、ABCも葬式に出席したが、Yから亡Xの資産や負債について全く話はなかつた。