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相続放棄後の相続財産の管理

Q:相続人全員が相続放棄しましたが、相続財産に築60年になる古家屋がある場合、この家屋はどうなるのですか。相続放棄した者に管理責任のようなものはあるのですか。

「相続放棄をしたのだから、相続財産に対する管理責任からも解放されるだろう。もう私は関係ない。」と安易に考えてしまう方が多いのではないでしょうか。ここに大きな誤解があるのです!相続放棄したからといって相続財産の管理責任から解放されるわけではありません。

民法を勉強された方であれば、次の条文があるから相続放棄をすれば責任がなくなるのだと主張されるかもしれません。

民法918条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は相続放棄をしたときは、この限りではない。

一見すると相続人は、相続放棄・承認をするまでの間、自己の固有の財産におけるのと同一の注意を払って相続財産を管理すべき義務があるということですから、相続放棄をすると管理義務がなくなるかのようです。

しかし、相続放棄をした場合は次の規定により、そうでないことが分かります。

民法940条 相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

つまり相続放棄をした者は、次の管理者が現れるまでは家屋(相続財産)の管理義務を続けなければなりません。

その結果、相続放棄をした者は、もし家屋が老朽化して倒壊する危険があれば補強工事をしなければなりませんし、雑草が生い茂って害虫が発生するのであれば除草・駆除しなければなりません。
いつまで管理義務を負うのでしょうか。新たに相続財産の管理事務を担う者が登場しなければ、相続放棄をした者は、永遠に、以上のような管理義務を負ったままです。

これでは何のために相続放棄をしたのか分からなくなってしまいます。

 

これに対する唯一の解決手段が「相続財産管理人の選任手続」なのです。

民法は次のように定めております。

民法951条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とする。

民法952条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。

結局、すべての相続人が相続放棄をし、相続人が存在しなくなった場合、相続財産は法人となり、その法人の管理業務を担うのが相続財産管理人になります。

相続放棄をした者は、「利害関係人」の立場で家庭裁判所に相続財産管理人の選任を請求します。

相続財産管理人が正式に選任されれば、相続財産の管理責任は相続放棄した者から相続財産管理人に引き継がれますので、この手続きが完了すれば、相続放棄をした者は相続財産に対する管理義務から解放されることになります。

問題は、相続財産管理人の選任を請求するにも、裁判所に納める予納金が必要になります。予納金の金額は、事案の複雑性、換価すべき財産の有無等にもよりますが、30万円~100万円の間ぐらいです。この予納金は、申立人が負担しなければならず、将来相続財産が現金化されることも望めないので、結局予納金は自己負担になってしまう可能性が高いです。

 

ですから、価値のない家屋等の相続財産が残された場合には、極めて厄介な問題となり、

『すべての相続人が相続放棄をし、管理を引き継ぐべき相続人がいない場合は、相続財産管理人を選任するまでは、相続放棄をした相続人は予納金を負担して、相続財産について管理責任を継続しなければならない。相続財産管理人が選任されれば、相続放棄をした者は相続財産に対する管理義務から解放されることになりますが、納めた予納金は戻ってこない。』

という結論になります。

尚、この家屋に資産価値がある場合は、(おそらく借金の方が多すぎて相続放棄した事例と思われ、同時に債権者がいる場合がほとんどですから)この債権者が利害関係人として「相続財産管理人」を選任して、相続財産管理人が家屋を換価し債権者の債権の弁済に充てるという流れが考えられますので、相続人にとって問題にならないと思われます。

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