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別居状態と死亡時資産状況を知らされなかったという事実がある場合―2

相続放棄申述受理申立却下の審判に対する抗告事件

昭和58年(ラ)第11号 福岡高等裁判所那覇支部決定

 

(主文)

原審判を取り消す。

抗告人らのした本件各相続放棄の申述を受理する。

 

(事実関係)

  1. a) Xは,昭和57年10月11日に86歳で死亡した(夫Yは,昭和19年9月に死亡)。
  2. b) Xには,長女A,次女B,長男Cの三人の子供がいた。
  3. c) Aらは,X死亡の事実をその死亡当日に知った。
  4. d) Xは,生前Cと同居していた。
  5. e) Cは,昭和39年ころから事業を営んでいたが,業績の悪化等により多額の負債を抱えるようになった。

f) Xは,自らが所有する土地八筆を処分してCの負債の整理を図ることとし,昭和55年中に同土地を3095万円余りで他に譲渡した。

  1. g) Xは,この土地譲渡に伴う所得税620万円余りについて滞納していた。
  2. h) Xは,死亡時,この国税債務のほかは何らの積極財産も有していなかった。

i ) Aは昭和23年3月,Bは昭和37年5月にそれぞれ結婚し,それ以来Xの存命中,X及びCとは別所帯で生活していた。

j) A及びBは,上記土地譲渡の経緯やこれに伴う国税債務の滞納の事情についてなんら知らされていなかった。X死亡の際にも,遺産についての話し合いはなく,国税債務の処理等についてCから相談されることもなかった。

  1. k) 相続開始から3か月以内に相続財産の調査や熟慮期間伸長の請求等がなされないまま3か月が経過した。

l) A及びBは,昭和58年3月6日すぎころ,国税事務所長から,Xの納付すべき上記国税債務につきAらが法定相続分に応じてその納付義務を承継した旨の通知を受けたため,同月31日に裁判所に対し,それぞれ相続放棄の申述書を提出した。

  1. m) A及びBは,X死亡の際,同人には積極財産はおろか,消極財産も全く存在しないものと信じていた。

 

(裁判所の判断)

上記認定事実によれば,A及びBは,Xの死亡当日,これによる相続開始の事実及び自己がその相続について相続人となった事実を知ったものといわざるをえないが,

 

① A及びBは,相続財産が全く存在しないものと信じ,

② かつ,そのように信ずるについてやむを得ない事情があり,

③ また,そのような事情のため3か月の期間につきその伸長の申立をする機会も失したような特段の事由が存在するものと認めるのが相当である

 

から,A及びBの熟慮期間の起算点は,いずれもXの相続債務の存在を知った昭和58年3月6日すぎころであるといわなければならない。

 

してみれば,A及びBのした本件各相続放棄の申述は法定の期間内になされたものというべく,この判断と異なる原審判は不当であって本件各抗告は理由があるから,これを取り消すこととし……当審において各申述を受理するのを相当と認め,主文のとおり決定する。

 

(弁護士のコメント)

本決定は,熟慮期間(民法915条1項)の起算点について判断をした最高裁判決(最判昭59年3月6日)以前の裁判例ですが,その判断枠組みや考慮事情は,おおむね最高裁判決と一致しているため,同判決後においても熟慮期間経過後の申立ての当否を判断する上で参考となります。

 

裁判所は,次のような事実から,上記3要件の該当性を認定したと考えられます。特に,i) XとA及びBは,長年別所帯で生活していたこと,j) 土地譲渡やそれに伴う国税債務の滞納についてA及びBがなんら知らされていなかったことが,その判断において重要なポイントとなります。

 

(要件該当性)

① A及びBは,相続財産が全く存在しないものと信じ,

  1. m) A及びBは,X死亡の際,同人には積極財産はおろか,消極財産も全く存在しないものと信じていた。

 

② かつ,そのように信ずるについてやむを得ない事情があり,

  1. i) Aは昭和23年3月,Bは昭和37年5月にそれぞれ結婚し,それ以来Xの存命中,X及びCとは別所帯で生活していた。
  2. j) A及びBは,上記土地譲渡の経緯やこれに伴う国税債務の滞納の事情についてなんら知らされていなかった。X死亡の際にも,遺産についての話し合いはなく,国税債務の処理等についてCから相談されることもなかった。

 

③ また,そのような事情のため3か月の期間につきその伸長の申立をする機会も失したような特段の事由が存在するものと認めるのが相当である

  1. j) A及びBは,上記土地譲渡の経緯やこれに伴う国税債務の滞納の事情についてなんら知らされていなかった。X死亡の際にも,遺産についての話し合いはなく,国税債務の処理等についてCから相談されることもなかった。

 

最高裁判決(最判昭59年3月6日)のいう「被相続人に相続財産が全く存在しないと信ずるにつき相当な理由あると認められる」の判断においては,本決定においても考慮されている,『相続債務の内容』,『生前の被相続人と相続人の関係』,『被相続人の生活状況』,『相続人間の関係』等の事情が考慮されるものと考えられます。

 

 

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